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訪問看護ステーションでソーシャルワーカーとして働いています

写真の説明:山村SWの個別面談風景(イメージ)

訪問看護ステーション芍薬と芍薬瀬谷には、ソーシャルワーカー(以下「SW」)が在籍しています。在宅ホスピス・緩和ケアは多職種で取り組まなければ高い質を実現できない、という考えからです。実際、米国の在宅ホスピスではSWの配置が義務付けられています。SWが訪問看護ステーションでどのような役割を担っているのか、山村朋子SWにインタビューしました。

ソーシャルワークとは

インタビューアー

山村さんはSWで社会福祉士ですよね。まずはソーシャルワーカーと社会福祉士の違いについて教えて下さい。


山村朋子SW

ソーシャルワークは人々が社会生活において直面するさまざまな課題について、人々が解決できるよう支援するための専門的な活動です。ソーシャルワークを実践しているのがソーシャルワーカーであり、世界でも様々な分野で活躍しています。社会福祉士は日本の福祉に関する国家資格の一つで、ソーシャルワーカーの基礎資格の一つとして精神保健福祉士などとともに取得されています。


インタビューアー

そもそも、ソーシャルワークとはどういうものなのでしょうか?


山村朋子SW

国際SW連盟の定義(日本SW連盟による翻訳)は次のようになっています。

(※1日本SW連盟によれば下記の後半部分の翻訳は英語と日本語の構造の違いにより非常に困難であるとのことであるが、ウェブサイトのままご紹介させて頂く)

ソーシャルワークは、社会変革と社会開発、社会的結束、および人々のエンパワメントと解放を促進する、実践に基づいた専門職であり学問である。

社会正義、人権、集団的責任、および多様性尊重の諸原理は、ソーシャルワークの中核をなす。

ソーシャルワークの理論、社会科学、人文学、および地域・民族固有の知を基盤として、ソーシャルワークは、生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう、人々やさまざまな構造に働きかける。

この定義は、各国および世界の各地域で展開してもよい。

出典:日本ソーシャルワーカー連盟ホームページ https://jfsw.org/definition/global_definition/


ソーシャルワークは「人を支援する」ということを研究している分野だと思います。困窮している人に不足しているものを与えるだけではその人の幸せにつながらない。人は社会とのつながりの中で生きており、社会の変化により様々な影響を受けています。その中で人の尊厳を守り、多様性を尊重しながら、自らの持つ力を発揮できるようにエンパワメントすることが支援であり、そのような社会に変革していこうとする活動がソーシャルワークの目指すところだと私は理解しています。

ソーシャルワークの価値倫理基盤~人間は成長し続ける社会とのつながりが必要な存在

インタービューアー

「個人」だけではなく、「社会」を支援対象にしているんですね。すごい大きな話ですね。しかも、「社会正義」とか、「人権」とか、あまり普段意識しないけれど、多分とても重要な事なんだろうな、というキーワードがちりばめられていますね。「多様性尊重」についても、最近はLGBTQの問題で話題になっていますね。山村さんがソーシャルワーク実践を始められたころには「多様性尊重」ということは日本社会ではあまり問題視されていなかったのではないでしょうか。


山村朋子SW

ソーシャルワークには、価値倫理、知識理論、実践技術が基盤としてあります。SWとしては、ソーシャルワークの価値倫理の基盤をしっかりと持つことは特に重要です。人の尊厳を守ること、人は社会とのつながりが必要であること、また人は成長し変化する潜在的な可能性があることがソーシャルワークの価値倫理の基盤の重要ポイントです。日本では最近になり「多様性の尊重」として最近はLGBTQの問題で話題になっていますが、日本社会も多様性の問題は古くから存在しています。私は縁あって米国でソーシャルワーカーとしての学びを始めましたが、多様性の問題、差別の問題については、多くの学ぶ機会に恵まれました。米国では自身もマイノリティーの立場でしたので、身をもって体験しましたし、自分の価値観が、これまで生活してきた社会にいかに影響を受けていたかにも気付く貴重な体験でした。


インタビューアー

価値観や信念は人それぞれですが、SWとしては人の成長を信じ、また、人にとっては社会の中での繋がりが必要だ、という人間観を持つことが重要だということですね。ところで、ソーシャルワークの定義に「社会変革」というキーワードもありますね。社会の考え方や在り方を変革する、ということなのですか?

社会の考え方や在り方を変革するソーシャルワーク

山村朋子SW
ソーシャルワークはクライエントの置かれている状況を、ミクロ(個人や家族)、メゾ(地域社会)、マクロ(社会、国)のレベルでとらえます。私も支援していく中で、クライエントの置かれている課題解決には福祉制度や社会の在り方の変革の必要性を強く感じることもあります。自立支援協議会などの会議を通じて個々の課題を、地域の課題にし、社会の課題にしていくことによって、声をあげていくことは大切だと思っています。個人の活動は「社会変革」には程遠いものですが、研究やロビー活動を行っているソーシャルワーカーの職能団体に参加し、少しでも社会が変わっていけばよいと思っています。


訪問看護ステーションでのソーシャルワーク

インタビューアー 訪問看護ステーションでは具体的にはどのような活動をしていますか?


山村朋子SW

私は訪問看護ステーションに所属しているので、利用者の方々は何らかの理由で医療をうけながら在宅で生活されている方を対象に関わっています。心身の状態により日常の生活に影響があるため、訪問看護師は生活全般を見る中で、支援の必要性をキャッチしています。


インタビューアー

訪問看護師がキャッチしてきたことを、山村さんと共有しているということですか?


山村朋子SW

訪問看護師が共有してくれた情報をもとに、SWとしての視点からアセスメントを行います。必要に応じてご本人やご家族にお会いさせていただき、ご本人・ご家族を取り巻く環境をアセスメントし、ご本人やご家族が課題解決のためどこにどのようにアプローチしていくかを考えます。自分で動くこともありますが、時には黒子に徹して訪問看護師が主体として動くこともあります。また、カンファレンスを行い関係機関全体に働きかけることもあります。


インタビューアー

でも、これだけ関連者が多いと、逆に変化を起こすのが難しくなると思うのですが、そこはどうなんでしょう?


山村朋子SW

確かに、在宅ケアの難しさは、各関係機関で考えやケアのプライオリティが異なる場合があることです。ただ、こうした違いも話し合いの中で共有しながら、「利用者様にとって今何が必用か」を考えていくと、おのずとお互いの理解が深まり解決につながります。皆さん「利用者様のために」という思いはお持ちですから。ただ、変化は簡単に起こるわけではなく、利用者様とご家族、そして取り巻く環境のどこかが少しでも変化すると、相互に影響しあい全体の変化にかわってきます。「その時」が来ることを辛抱強く待つことも時には必要になります。


インタビューアー

え、では必ずしも、山村さんが個々のケースで患者さんやご家族と面接するわけではないのでしょうか?

ソーシャルワーカーの対人援助技術

山村朋子SW

全てのケースで面接しているわけではありませんが、面接はソーシャルワークにとって重要な「対人援助技術」です。面接をとおして相手の方と共感し、信頼関係を築いていくことができます。医療や看護が様々な技術をもって患者様・ご家族様と関わっているのと同様に、面接はソーシャルワーカーにとって重要な援助技術の一つです。面接の基本姿勢として「バイスティックの7原則」があります。介護福祉士やケアマネージャーなど対人援助技術には必ず取り上げられる内容です。

7原則は、①個別化、②意図的な感情表現、③統制された情緒的関与、④受容、⑤非審判的態度、⑥クライエントの自己決定、⑦秘密保持です。当たり前の内容のようですが、面接の中で実行するのはなかなか難しいことです。対人援助技術については、さまざまな研究もされており、臨床実践として日々研鑽を続けなければならない分野です。

 

ホスピス・緩和ケアソーシャルワーク~実践中と今後の展望

インタビューアー
GCI芍薬訪問看護では在宅ホスピス・緩和ケアに力を入れていますが、山村さんが現在実践しているホスピス・緩和ケアソーシャルワークについて、説明して頂けますか?


山村朋子SW

GCI芍薬訪問看護では、小児の緩和ケアにも力を入れています。WHOによると、緩和ケアの対象は、生命を脅かす疾患による諸問題を抱える患者とその家族とあります。小児の緩和ケアにおいては疾患的にも幅広くとらえられており、「生命を脅かす疾患life threatening illness」を4つのカテゴリーに分けています。がんだけではなく、先天性疾患のあるお子さんや重度心身障害のあるお子さんも、「進行性で治療が概ね症状緩和に限られる」、「不可逆的な重度の障害を伴う非進行性の病気で合併症によって死に至ることもある状態」の範疇にそれぞれ含まれています。成人と比べ、小児のケースは子供の成長発達を支えるという側面があり、医療、療育、福祉、教育と支援者や福祉制度も多岐にわたります。


小児分野では、ケアマネージャーに相当する相談支援員が圧倒的に不足しており、ご家族が自ら動かなければならない現状があります。その現状を何とかしようと、5年前に相談支援事業所を立ち上げることを組織に提案し、相談支援員として障害児相談支援事業に携わってきました。まだまだお子様や親御様方から教えていただくことばかりですが、やりがいを感じています。


インタビューアー

今後の芍薬ソーシャルワークの展望はどのように考えていますか


山村朋子SW

小児の領域においてはまだまだ課題山積です。2021年に医療的ケア児支援法(※2)ができ、医療的ケア児の日常生活・社会生活において医療、療育、福祉、教育において切れ目ない支援を行うような行政の義務が明確になりました。しかしながら、具体的な支援は始まったばかりで、医療ケアの必要なお子様方のニーズを満たす制度が整っているとはいえません。縦割り行政の弊害も感じます。そのような社会状況の中で、日々成長しているお子様方のニーズを伝え、どのように支援するかを民間も行政もお互い協力して考えていくことの必要性を感じています。

(※2)医療的ケア児支援法:(mhlw.go.jp)


山村朋子SW

また、最近の傾向として災害の影響が深刻化している為、医療的ケア児とそのご家族の防災対策にも関心があります。災害時は、「自助」が基本となりますが、横浜市が作成した「わたしの災害対策ファイル」(※3)をもとに、ご家族が具体的な災害対策を考えていただくよう準備をしていく予定です。ファイルの作成をとおしてご家族に少しでも「災害時でも大丈夫」という自信を持って頂けることを目的にしたいと思っています。

(※3)次の横浜市のホームぺージでダウンロード可能

https://www.city.yokohama.lg.jp/kenko-iryo-fukushi/fukushi-kaigo/chiikifukushi/yogoshien/watashi_file01.html


インタビューアー

確かに、話していると課題が見えてきたり、その課題解決を通して自信が湧いてきたりしますね。本日はありがとうございました。ソーシャルワークとはどのようなものか、そして山村さんが訪問看護ステーションでどのようにご活躍されているのか、よく分かりました。


山村SW

在宅での活躍の場はたくさんあります。在宅でのソーシャルワークを一緒に進めてもらえる仲間を募集しています!

サマリー

ソーシャルワークとは、人々の社会生活上の課題解決を支援する専門的活動であり研究分野。社会福祉士はソーシャルワーカーの基礎資格のひとつ。”日本ソーシャルワーカー連盟”の定義からも、人間とは社会から影響を受けながら生きているので、不足しているものを与えるだけでは幸せにはなれず、個々人の持つ力を発揮できるよう支援したり、そのようなことが実現できる社会へと変革する活動がソーシャルワークであると言える。


ソーシャルワークには価値倫理、知識理論、実践技術という3つの基盤があるが、このうち価値倫理の基盤が最も重要。人間は社会とのつながりの中で成長し続ける存在であり、多様性を尊重する社会であることが重要。日々の実践を通じて、クライエントの課題解決には福祉制度や社会の在り方の変革が必要だと感じることがよくある。個々人の課題を地域の課題であると声をあげ、そしてそれは社会の課題だと声をあげることが大切。


現在実践している訪問看護ステーションのソーシャルワークは医療的ケアが必要な方々を対象にしている。訪問看護師が支援の必要性をキャッチし、その内容をSWの視点でアセスメントする。アセスメント結果によって自分が主体的に動くこともあるし、訪問看護師が主体となりSWは黒子に徹するケースもある。


関係機関全体に働きかける必要があるケースでは、各機関の考えの違いが浮彫になる場合もあるが、「利用者様にとって何が必要か」を道標にこうした違いも共有していると解決につがなる。どこかにSWとして働きかけると、どこかが動き、全体が変化する、「その時」を待つことも必要。


クライエントとの面接である「対人援助技術」は、クライエントと共感し、信頼関係を築いていく、ソーシャルワーカーにとって重要な援助技術であり、「バイスティックの7原則」に沿って実施する。


現在実践している在宅ホスピス・緩和ケアソーシャルワークでは小児緩和ケアに力を入れている。先天性疾患のある児や重度心身障害のある児も緩和ケアの対象。成長発達を支えるという側面から、成人より支援者や福祉制度も多岐に渡る。


小児在宅ではケアマネージャーのような支援員が不足している現状を踏まえ、5年前に相談支援事業所を立ち上げた。この相談支援員としての活動にも、やりがいを感じている。


今後の展望としては、2021年に医療的ケア児支援法ができてもまだ医療的ケア児のニーズが充分には満たされてはいないので、民間・行政が協力していく必要性を感じている。


医療的ケア児の防災対策にも関心があり、横浜市が作成した「わたしの災害対策ファイル」をご家族が作成する際の支援をしていく予定。