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各職種の倫理綱領その②:ケアマネージャーの倫理綱領

~ケアマネージャーの倫理綱領~

2回目の今回はケアマネージャーの倫理綱領を取り上げます。一般社団法人日本介護支援専門員協会によると、日本のケアマネージャーの倫理綱領は平成21年3月26日に制定されました。「自立支援」から「より良い社会づくりへの貢献」まで、12項目で構成されています。また、それぞれの項目ごとに詳しい解説が公開されています。倫理綱領原文と解説は一般社団法人日本介護支援専門員協会のホームページからダウンロードできます。

「法令遵守」:ケアマネージャーの倫理綱領の一項目

ここで、当シリーズの1回目でご紹介した企業倫理の全体像を思い出してみたいと思います。

SEP(優れた倫理的言動)=(L C/J +((RK+JR+U)(I))×M

L C/Jとは、Comply with what is Lawful as long as the Law is Justで、法律・規則が妥当な場合に、それに従う言動が「優れた倫理的言動」を取る為の一要素だということです。



ケアマネージャーの倫理綱領の第7番目の項目に「法令遵守」という項目がありますが、当項目がL C/Jに該当します。同項目は以下のように解説されています。

「法令遵守」が利用者の不利益につながる場合にどうすれば良いか


上記解説の中で、着目したいのは以下の最後の一文です。

利用者の不利益につながるような法律等がある場合は、正当な方法で法改正を促す活動をしていくことも、制度の継続性のためにはとても大切なことであることを理解しておくことが必要です。


「法令遵守」を倫理綱領の一項目としながらも、その「法令」が利用者の不利益につながる、つまり倫理的ではないかもしれない、ということを想定しています。この一文では非倫理的な法令を遵守する必要はない、とまでは言っていませんが、盲目的にそのような法令に従わず、建設的に課題解決するマインドセットを求めています。

L C/Jで説明される倫理的行動も同様に、実社会で今現在施行されている法令や社会的ルールが倫理的ではない場合を想定しています。実際、民主主義国家であっても、奴隷制度が合法だった時代があるなど、法律が常に倫理的であるとは限りません。

利用者の不利益につながるような法律等に直面した際、ケアマネージャーの倫理綱領の「法令遵守」項目がケアマネージャーに期待する行動をスタッフ全員が取れること、即ち、よりご利用者・ご家族のニーズに沿った在宅ケアを提供できるようにルール改正がされるよう何らかの働きかけをすることを、GCI芍薬訪問看護では期待されています。在宅ケアの現場では、ご利用者・ご家族のニーズが多岐に渡る上、それぞれのご家庭の個別事情が複雑に絡み合う為、もう少しこのルールがこうならご利用者のニーズに沿ったケアが実現できるのになあ、と思うことが多々あります。

「法令遵守」がご利用者の不利益につながる例

例えば、小学生のお子さんの自己導尿のご支援の依頼が訪問看護にあった時のことです。その頃の訪問看護では制度上、学校に訪問することは認められていませんでした。自己導尿支援という同じケア内容であっても、児のご自宅であれば診療報酬として認められますが、学校に看護師が出向きこのケアをしても診療報酬として認めてもらえないのです。仕方なく、私たちは診療報酬であれば得られたであろう報酬の10分の1程度の有償ボランティアで、このケアに対応しました。

同様に、足の悪い高齢のご利用者に入浴介助が必要だったケースでは、ご自宅の浴槽では高さがあってお入りになれなく困っていたところ、ごく近隣の娘様のご自宅であれば浴槽が低い位置にあって入れるということが分かりました。そこで、娘様がご利用者をご自宅まで迎えに来て、訪問看護師は娘様宅に訪問し入浴介助すれば良いね、ということになりました。ところが娘様のご自宅では介護報酬上訪問看護として認められないということが判明し、娘様に入浴介助をお願いせざるを得ないということになってしまいました。

前者については義務教育でもあるわけですから「自宅」の範囲を広くとらえ、「通常生活地域」としてはどうか、とGCI芍薬訪問看護では機会があるたびに声をあげてきました。同様の状況下で本来提供すべき看護ケアを提供できない、という声を同業仲間からお伺いすることもよくありました。その結果だと思われますが、現在横浜市では「横浜市立学校における医療的ケア支援事業」として、上記のようなケースに看護師が派遣されることが制度化されています。

法令等改変への働きかけ~対人援助の専門家だからこそできること

次回以降のシリーズで登場しますが、GCI芍薬訪問看護に所属する他の職種の倫理綱領には「法令遵守」の項目がなく、ケアマネージャーの倫理綱領の特徴点だと言えます。また、遵守すべきとはしながらも、その遵守すべき法令等が倫理的ではないと発見した際には、改変に向けて行動を起こすことを促しているのは特筆すべき点だと思います。対人援助に深くかつ適切に関われば関わるほど、ご利用者・ご家族の真のニーズとそれを阻む制度とのギャップに気づくであろう、ということを深く理解した上で、こうした対人援助の専門家に正しい道標を与える倫理綱領になっています。法令等の改変はあまり身近なことではありませんが、対人援助の専門家だからこそ法令等の改変の必要性に気づくことができるのだと認識し、GCI芍薬訪問看護はこれからもこの倫理綱領に沿った活動をしていきたいと思います。

サマリー

ケアマネージャーの倫理綱領は平成21年に制定され、12項目で構成されています。

シリーズ第一回目で、優れた倫理言動のコンセプチュアルな全体像として、SEP(優れた倫理的言動)=(L C/J +((RK+JR+U)(I))×Mという数式をご紹介しました。ケアマネージャーの倫理綱領のうち「法令遵守」の項目はL C/Jに該当します。

当項目では、法令遵守がご利用者の不利益につながる場合、そうした法令等が改変されるように働きかけることをケアマネージャーに求めています。GCI芍薬訪問看護ではケアマネージャーだけではなく、全ての職員にこのような活動をすることが期待されています。

在宅ではご利用者・ご家族のニーズは多面的であり、対人援助に深く関われば関わるほど、法令等がご利用者・ご家族のニーズに合致しないと気づく場面が多くなります。GCI芍薬訪問看護では、在宅領域の対人援助の専門家だからこそできる、法令等の改変に向けた活動をしていきたいと思います。