写真の解説
ルネサンス期のラファエロ作「アテナイの学堂」です。バチカン宮殿の壁画に古代ギリシャ哲学者を含む賢人たちが描かれています。現代の倫理学やビジネスエシックス(企業倫理)にも多大な影響を及ぼしているアリストテレスも描かれています。(中央でソクラテスの左横で青いローブをまとい右手を前に出しているのがアリストテレス)Pexcelsよりダウンロードさせて頂きました。
GCI芍薬訪問看護は多職種チームワークを大切にしていますので、各職種がお互いを深いレベルで理解しあい尊敬しあうことが必要と考えています。そこで、各職種の職能団体が作成している倫理綱領、もしくは職種独自に開発した倫理綱領を発表しあい多職種でディスカッションする機会を設けました。この時発表された各専門職の倫理綱領に解説を加えることで、GCI芍薬訪問看護が大切にしていることや目指していることをシリーズでご紹介します。
第一回は事務の倫理綱領です。事務職には職能団体が作成した倫理綱領がありませんので、GCI芍薬訪問看護で独自に事務職の倫理綱領を作成しました。
作成したのはGCI芍薬訪問看護で勤務している事務職員2名+ChatGPTです。まずは完成した倫理綱領の全貌をご紹介しましょう。
~GCI事務職員の倫理綱領~
- すべての関係者の尊厳と自己決定の尊重
・すべての関係者の尊厳を最優先に考え、個別のニーズや価値観を尊重する
・すべての関係者の自己決定権を尊重し、適切な情報提供と共有意思決定を促す
- 公平なサービスと公共の利益の追求
・すべての利用者に公平な訪問看護サービスの提供を目指す
・利用者の利益だけでなく、公共の利益や地域の健全性を考慮する
- プロフェッショナリズムと協力
・専門的な知識やスキルの向上に努め、最新の医療情報や関係法令に基づいた
サービス提供を目指す
・全スタッフとのチームワークを重視し、互いの専門性や責任を尊重する
・適切なコミュニケーションを通じて情報共有や連携を図り、安全で質の高い
ケアの継続を確保する
・全スタッフと協力して、利用者のケアを一貫したチームで行い、情報や計画の
共有を通じて連携を図る
・事実やデータを尊重し、適切な根拠がない情報や信ぴょう性のない情報に基づ
く判断を避ける
- 専門倫理と継続的な教育
・各職種の専門倫理の理解と尊守に努める
・継続的な教育やプロフェッショナルな成長を追求し、看護師との知識の共有を 積極的に行う
- 倫理的な情報の保護と機密性の確保
・利用者や関係者のプライバシーと個人情報の保護を厳守し、同意なく情報を
開示しない
・個人情報を必要な範囲で共有し、適切な機密性の確保を行う
- 倫理的な問題への共同対応
・倫理的な問題やジレンマが発生した場合、全社で倫理的な対応策を検討し、適切な解決
を図る
・利用者の権利と福祉を最優先に考え、共同で意思決定をおこない、必要なサポートを提
供する
- リーダーシップの発揮
・問題や課題を見据え、柔軟に対応し、分析や調整を行うことで組織の成功に寄与する
・自身の専門知識や能力を踏まえ、技術的なニーズに対応し、適切なサポートを提供する
- 組織への忠誠と目的の追求
・組織の使命や価値観を理解し、それに則った業務を遂行することで、組織の成功に寄
与する
・同時に、自己の目的や成長にも注力し、個人と組織の相互の繁栄を追求する
ChatGPTをどのように活用したのか
GCI芍薬訪問看護の事務職員の倫理綱領作成にあたって、ChatGPTに素案を作成してもらっています。その際、ChatGPTに語りかけたのは以下のふたつの質問です。
質問1)「訪問看護ステーションの事務職員の倫理綱領を作成して下さい。その際、マイケル・サンデル教授のお考えを参考にしてください。」
質問2)「我社の事務職員の倫理綱領を作成して下さい。その際、次の我社の組織理念を参考にしてください。 世界最高水準の在宅ホスピス・緩和ケアの提供を通じて、地域社会、日本、そして世界のウェルビーイングの向上に貢献すると共に、参画人員全員のリーダーシップと参画人員間のチームワークの育成を通じて、参画人員個々の職業人としての資質向上と、人間としての成長に貢献する。」
質問1で登場するマイケル・サンデル教授は米国の哲学者、倫理学者で、ベストセラー著書の「これからの『正義』の話をしよう」でご存じの方も多いと思います。また放送当時話題となったNHK番組「ハーバード白熱教室」をご覧になってマイケル・サンデル氏の講義に引き込まれ、哲学や倫理の話にご興味をお持ちになった方もおられると思います。GCI芍薬訪問看護では、事務職員にこの「ハーバード白熱教室」を観てもらっていました。
ChatGPTに質問1を投げかけた、その結果現れた倫理綱領(素案)の序文は以下の通りです。
訪問看護ステーションの事務職員の倫理綱領を作成するにあたり、マイケル・サンデル教授の「正義論」や「公共の善」を重視する考え方を参考にします。サンデル教授は、個人の権利だけでなく、共同体全体の利益や相互の責任を大切にする倫理観を提唱しています。この視点を基に、事務職員が果たすべき責任や役割を倫理的に整理しました。
※1)偏ったお考えの倫理学者の考えを参考にするようChatGPTに依頼すると、「どの訪問看護ステーションの事務でも大切にしなければならない」倫理綱領を得ることはできません。マイケル・サンデル教授のお考えは次の「ビジネスエシックス理論の観点からの再考」で述べるようにビジネスエシックス(企業倫理)上の論点を包括的に考慮していると考えました。この為、マイケル・サンデル教授のお考えを参考にすれば、まずは「どの訪問看護ステーションの事務でも大切にしたければならない」倫理綱領を得ることができると考えたのです。
さらに、GCI芍薬訪問看護独自の倫理綱領を作成する為に、質問1の結果に質問2の結果を反映させました。その結果が冒頭お示しした「GCI事務職員の倫理綱領」です。
ビジネスエシックス(企業倫理)理論の観点からの再考
筆者が学んだ米国の経営大学院ではビジネスエシックスが必須科目となっていました。そのクラスの教科書では、数式でビジネスエシックスの全体像が示されており、分かりやすい・・・と言うと語弊があるかもしれませんが、難解なものを簡単に説明してくれている、と感じたのでご紹介します。
出典:ミシガン大学ビジネススクール(現University of Michigan Stephen M. Ross School of Business)2014年秋学期の“BA-512 The Ethics of Corporate Management”(Professor Timothy L. Fort担当)のテキストブックP137に筆者がSEPの日本語訳を加えた
L C/Jとは、Comply with what is Lawful as long as the Law is Just(※2)で、法律・規則が妥当な場合に、それに従う言動が「優れた倫理的言動」を取る為の一要素だということです。
RKはKantian Rights(※2)で、エマニュエル・カントが提唱する権利を害さないことも一要素だということを示しています。
JRはRawlsian Justice(※2)で、ジョン・ロールズが提唱する正義に沿った言動も一要素で、同様に
UはUtilitarianism(※2)で、最大多数の最大幸福を実現しようとする言動も「優れた倫理的言動」の一要素だと示されています。「最大多数の最大幸福」は功利主義と呼ばれている学説です
※2)出典は数式の出典と同様、Professor Timothy L. Fortのテキストブック
ここまでで登場した2人の哲学者と1学説は、サンデル教授の「これからの正義の話をしよう」にも、「ハーバード白熱教室」にも登場します。いわば、倫理の御三家なのでしょう。また、筆者は米国のコミュニティカレッジで倫理のクラスを聴講しましたが、この時の御三家はカント、功利主義、アリストテレスでした。アリストテレスについては数式のうち残るIとM3に関連していますし、サンデル教授もProfessor Fortも言及しています。GCI芍薬訪問看護の経営理念や行動規範上もアリストテレスの考えは非常に重要なので、IとM3も含め次回以降のシリーズでご紹介したいと思います。
サマリー
~GCI事務職員の倫理綱領~
■すべての関係者の尊厳と自己決定の尊重
■ 公平なサービスと公共の利益の追求
■ プロフェッショナリズムと協力
■ 専門倫理と継続的な教育
■ 倫理的な情報の保護と機密性の確保
■ 倫理的な問題への共同対応
■ リーダーシップの発揮
■ 組織への忠誠と目的の追求
ChatGPTをどのように活用したのか
素案の作成にChatGPTを活用しました。ChatGPTへの質問は、どのような組織の事務職員でも対象とできる倫理綱領を得る為の質問と、GCI芍薬訪問看護の事務職員のみを対象とする倫理綱領を得る為の2つの質問をしました。前者では、哲学者で倫理学者のマイケル・サンデル教授のお考えをベースにするようChatGPTに指示しました。後者では、GCI芍薬訪問看護の組織理念をベースにするようChatGPTに指示しました。これら2つの質問から得られた倫理綱領を合体し整理することで、最終的なGCI芍薬訪問看護の事務職員の倫理綱領が完成しました。
米国のビジネススクールのビジネスエシックス(企業倫理)のクラスの教科書で紹介されているビジネスエシックスの全体像
この式から読み取れるのは、倫理を考える時、エマニュエル・カント、ジョン・ロールズ、そして功利主義の考え方を包括的に考慮する必要がある、ということですが、これはマイケル・サンデル教授の主張と同じです。即ち、この三者は倫理の御三家と言えます。