横浜市の訪問看護ステーション芍薬では、在宅ホスピス緩和ケアを含む訪問看護を24時間365日いつでもご提供いたします。

横浜市の訪問看護ステーション芍薬 株式会社GCI Global Caring Innovation

24時間対応体制
営業時間以外でも、ご希望の方には必要に応じて訪問いたしますので、当ステーションにご連絡ください。
深夜・日曜日・祝日・年末年始も連絡が取れ、かつ必要に応じて看護師が緊急訪問する体制を取っています。

GCI活動レポート 2016

老年の緩和ケアプロジェクトについて

(株)GCI(訪問看護ステーション芍薬/芍薬青葉母体)代表取締役 鈴木ヨシモト直美

 訪問看護ステーション芍薬/芍薬青葉は、在宅ホスピス・緩和ケアを提供する為に開設された訪問看護ステーションであり、このふたつのステーションを統括する本部には、在宅ホスピス・緩和ケア推進部が設けられています。この部署で2014年5月より、調査・研究を開始したのがここでご紹介する“老年の緩和ケア”という概念です。

 私どもが“老年の緩和ケア”に着目したきっかけは、次のようなケースを通してでした。このご利用者は、脊柱管狭窄症の痛みの為に、それまで楽しんできた家族と温泉に行ったり外食したりする時間が、今は昔のこととなってしまったとひどく悲しまれておりました。この痛みが何とかならないか、と、複数の医療従事者に相談したところ、がんの痛みの場合と比較して、危機意識のレベルが低いという現状を肌で感じました。がんの痛みの場合、誰に相談しても「必ず取る。何としても取る。」という意気込みと、職業専門家としての使命感のようなものをいつも感じてきた私としては、非常に意外であり、また、何故こうなってしまうのかを知りたくなりました。さらには、非がん疾患の痛みに対しても、がんと同様の危機意識と職業専門家の使命感で「必ず取る。何としても取る。」とメンバーの全員が口に出来るような組織を育成しなければならない、という決意に至りました。

 それからというもの、私どもの悪戦苦闘が始まりました。まず、WHOでは緩和ケアの対象とすべき小児については明確な定義があるにもかかわらず、緩和ケアの対象とすべき高齢者については定義がありません。あの時、私が相談した医療従事者は、脊柱管狭窄症の痛みに苦しむ高齢者を、緩和ケアの対象とは見ていなかったのだと気づきました。他のガイドラインや文献にも、定義らしき記述は随所に存在してはいましたが、いずれも曖昧模糊としていて、組織全体を納得させられるだけの明確性に欠けていました。さらに、私を奈落の底に突き落としたのは専門看護師さんからの次のような助言でした。私が「75歳以上を緩和ケアの対象とすべき高齢者と定義してはどうでしょうか。」という質問を投げかけると、この専門看護師さんは、「75歳じゃ遅いわ。緩和ケアはもっと早期に開始しないと。75歳じゃ、もう、自分で色々と判断できなくなっている場合もあって、遅すぎると思うの。」と。非常に納得させられると共に、私の脳裏には、65歳や70歳でも地域で活き活きと活躍されていて、とても緩和ケアの対象とすべきとは言えない高齢者の姿が浮かんできました。誰もが納得できる、緩和ケアの対象とすべき高齢者とは一体誰なのか・・・。特に、さしたる疾患がなく、いわゆる老衰の高齢者の場合、緩和ケアの対象とすべきは誰なのか・・・。

 ソーシャルワーカーの村山は、このような、解が得られないかもしれない問に対し、勇気を持って立ち上がり、1年間粘り強く取り組んでくれました。ここにご紹介する項目以外にも、老年緩和ケアで特に重要となるACPを含め、広範な調査・研究を実施してくれました。この村山の多大なる貢献の結果、現在、訪問看護ステーション芍薬/芍薬青葉の全体で、村山の以下のレポートにある“フレイル”の状態の高齢者については緩和ケアの対象とすべきという考えで一致しています。実際に日々のケアの現場でこれらの対象者全員に、包括的な緩和ケアを提供できていると言い切れる段階には、残念ながらまだ至っておりませんが、緩和ケアが人間の権利として、それが必要な全ての方に届けられている状態を夢見て、弊社の看護師、ソーシャルワーカー、ケアマネージャー、ボランティアコーディネーター、事務職員で構成される多職種一丸となって、日々努力を重ねているところです。


老年の緩和ケア 高齢者に必要な緩和ケアと「フレイル」について

ソーシャルワーカー/ケアマネージャー 村山 令

高齢者在宅ケアの背景

 現在日本の在宅医療において看取った非がん疾患患者の死亡時の平均年齢は84.0歳、神経難病を除くと、在宅における非がん疾患患者の緩和ケアは、高齢者に対する緩和ケアであるとの報告があります(1)。また、同報告では、非がん疾患患者の平均在宅日数は744日、非がん疾患患者の在宅緩和ケアでは、長期ケアの延長線上に終末期ケアがあるとも示されています。
 高齢になると、非がん疾患かつ複数の慢性疾患を抱えている方が多くなります。高齢者療養は長期的であるのが特徴であるものの、慢性心不全や慢性閉塞性肺疾患など疾患によっては状態が急に悪化し、ある日突然に終末期を迎えることもあります。しかしながら、複数の慢性疾患を合わせて患うために、高齢者の多くは、 がんの終末期とは異なり、その予後予測が困難であると言われています。
 予後予測が告げられず、また、状態が落ち着いているがゆえに、本人も家族も、終末期の意識が持ちにくく、本人の意思を確認できないままに、ある日、救急で医療機関に搬送され、どこまでの治療を施すのが良いのか判断できずに戸惑う家族も少なくありません。また、一人暮らしの高齢者も増えており、自宅で最期まですごしたいと願っていても、意思を伝える機会も無く、認知症の進行や突然の脳血管疾患の発症などにより、自身の意思を伝えられないまま、運び込まれた医療機関にて、本人の意に反する延命が行われることもあり、問題視されています。

老年の痛み

 こうした高齢者の在宅ケアを背景として、高齢者も緩和ケアを必要とする痛みを抱えていることが伺われます。では、緩和ケアを必要とする高齢者が抱える痛みとは何を意味するのでしょうか?
 2004年にWHO(世界保健機構)ヨーロッパは「高齢者へのよりよい緩和ケア」(2)にて、これまで見過ごされている高齢者の痛みを、次のように示しています。

(1)変動する医療的で複雑な問題の影響を受けている。
(2)個別の疾患より以上に、複合的なものの影響が大きくケアの必要な障害になることが多い。
(3)薬による治療など医原性のものに影響をうけやすい。
(4)小さな問題が累積することで大きな心理的影響を受ける。
(5)急性の病は、身体的にも、精神的にも、障害にも、また経済的にも影響し、そして孤立へと重ねられた問題となる。

 高齢者の痛みには、身体的な痛みに限らず、社会や家族関係において孤立しがちである日常の心理社会的な痛みや、一つ二つと疾病や生きづらさを背負いながら生きることや、そうした自身の存在自体を問うスピリチュアルな痛みもあります。

 日本老年医学会は、2012年に「高齢者の終末期医療およびケアについて」次のような立場表明を示しています。
 「高齢者のあらゆる終末期において、緩和医療およびケアの技術がひろく用いられるべきである。(中略)高齢者には、認知症、心不全、呼吸不全などの非がん疾患をみることも多い。死に至る原因疾患は異なっていても、死の最終局面においてはかなり共通したプロセスをたどることが多く、非がん疾患の場合もがん疾患と同じような苦痛を伴うことが少なくない。近年、終末期における苦痛のメカニズムに関する医学的研究がすすみ、緩和医療およびケアの技術には大きな進歩が認められる。こうした最新の技術が、高齢者のあらゆる終末期においてひろく適用されることが望まれる。」(3)

 高齢者には複数の疾病を伴いながら、長期にわたる療養の中での「痛み」があり、その痛みは、がんの緩和ケアにて提供されているのと同じように、身体的ケアや心理社会的ケア、そしてスピリチュアルなケアを必要としています。さらに、先の報告からも示されているように、高齢者の特徴として、長期ケアの延長線上に終末期ケアがあることからも、緩和ケアも長期ケアの段階から必要とされていると言えます。
 では、こうした予後予測が困難である、高齢者の痛みへの緩和ケアとは、どのようなことを指標として提供していくことができるのでしょうか?

老年の緩和ケア対象となる指標としてのフレイル

 ここまで、高齢者の抱える緩和ケアを必要とする痛みについて見てきました。しかし、先にも示したように、複数の慢性疾患を抱える高齢者の予後予測は困難であり、高齢者本人も介護する家族も、さらにはケアを提供するスタッフすらも、緩和ケアの対象として関わる基準が曖昧になります。
 こうした高齢者に緩和ケアが必要であると判断する指標の一つとして、2016 年に老年医学会から提示された「フレイル」(4)に着目しています。
 フレイルとは、加齢に伴う心身および生活環境も含めた脆弱化を意味しています。加齢に伴う心身機能の脆弱化、および社会とのつながりや、生活環境の変化に伴う社会的な脆弱化を、バイオ・サイコ・ソーシャルの全人的な視点からとらえ、その総合的な状態を「フレイル」と称します。
 2010年ライフ・プランニング・センター主催の“ 高齢者医療における緩和ケア”フォーラムにおいて講演されている、NYマウント・サイナイ医科大学老年科医師であるNathan E. Goldstein氏は、フレイルへの取り組みについて次の内容を紹介しています。(5)

フレイルの診断基準
(1)筋力低下:握力の低下(5回続けて椅子から立ち上がれない)
(2)体重減少:一年間で5%以上、あるいは10ポンド(4.5s)以上の体重減少
(3)精力(活気)の減退:「精力(活気)にあふれているか?」の質問に対する応えが“NO”
(4)緩慢な動作:15feet(約4.6m)を6秒以内で歩けない(身長の低い者では7秒)
(5)身体活動の低下
 *これら項目のうち3つ以上に該当するとフレイル。1〜2つでフレイル予備軍
上記以外に、
(6)認知機能障害:認知機能障害イコール脆弱化ではないが、同時に生じることが多い。
(7)バランス・運動障害
(8)気分障害
(9)健康に対する低い自己評価
(10)社会的資源の欠如
(11)しばしば併存疾患を伴う
ステージ
 早期:ADL障害なし
 中期:ADL障害の始まり;転倒
 後期:ADL障害あり;繰り返しの入院;生命に対する危機的状態の疾患

さらに、フレイルへの対応としてNYマウント・サイナイ医科大学老年科では、次のプログラムを提供しています。
(1)ケアの目標を決め、意思決定を支援する
(2)背景の原因を明らかにして治療する
(3)症状を治療する
(4)患者と介護者の需要に見合ったケアを調整する
(5)適切な支援プログラムを紹介する

 現在、国内では、高齢者への介護予防の観点から、フレイル指標として日本独自に作成した「基本チェックリスト」が用いられ、地域包括支援センターにおいてスクリーニングを行っています。軽度であるプレフレイルと判断された高齢者には、予防支援として、運動・栄養・社会参加の3つの柱に基づくプログラム参加をマネージメントしています。ここでのフレイル(厳密にはプレフレイル)は、改善が図れる可逆的な状態としてとらえられ、その取り組みが市町村で行う介護予防事業において進められています。
 しかし、一方で、フレイルには、緩和ケアの指標として着目できる、不可逆的な状態を示すという特徴があります。フレイルの状態にあると、図−1に示されるように、軽度の疾病に罹患した場合に、侵襲的な影響を大きく受けるものであり、回復までの時間も長くなり、疾病が治癒したとしても全身状態は罹患前の状態にはもどらず、入院が長引く要因ともなりえます。

図1:フレイルの概念

 フレイルの状態であると判断された高齢者はその後、一年以内に要介護状態になるとのエビデンスも、昨年立ち上げられたフレイル学会にて報告がありました(6)。このことは、フレイルの状態であることは、緩和ケアの定義が示しているところの「生命を脅かす疾患による問題に直面している」状況にあると言えるのではないでしょうか。
 在宅で過ごされている高齢の方が、長い療養の経過において、主たる疾患は主治医からは落ちついているといわれながらも、このところ食が細くなり、1年間での体重減少が顕著でしばしば転倒することも多くなってきた。あるいは、一人暮らしで認知症の方がほとんど外出しなくなり(できなくなり)引きこもるようになる。これまで、こうした変化は高齢になったことにより弱ってきている、あるいは仕方の無い老化とのみとらえ、その後の経過に伴う痛みは看過されてきていることは、先のWHOヨーロッパにおいて指摘されている通りです。
 こうしたフレイル指標を用いることにより、その延長線上に終末期ケアがある長期ケアの段階から、緩和ケアの提供を開始できるのではないでしょうか。それぞれの疾患からは予後予測が伝えられなくとも、フレイル指標に基づき緩和ケアを開始することで、ご本人ともご家族とも意思表示が困難となる前に、ご本人の意志決定を支援していく話し合いを始め、その結果、意思決定支援も含めた包括的な緩和ケアを適時に提供できるのではないかと捉えています。


引用
(1)在宅医療テキスト 企画・編集 在宅医療テキスト編集委員会
  2014年1月第2版 平原佐斗司他
(2)“The needs of older people at the end of life”
  『高齢者のためのより良い緩和ケア』p.14, 2004年 WHOヨーロッパの提言
(3)日本老年医学会「高齢者の終末期医療およびケア」に関する立場表明
  2012年1月28日理事会承認(日本老年医学会)
(4)「フレイルに関する日本老年医学会からのステートメント」2014年5月
(5)「高齢者の脆弱化」Nathan E. Goldstein、p26〜28
  “高齢者医療における緩和ケア”2010年 ライフ・プランニング・センターフォーラム資料
(6)「基本チェックリストの妥当性(スクリーニングの予測頻度)について」
  遠又靖丈、賽澤篤 他 日本公衆衛生雑誌 58:3-12,2011
  「介護予防マニュアル改訂版」平成24年3月 介護予防マニュアル改訂委員会より